「最近女子達がソワソワしているようだが、何かあっただろうか」
突然の言葉で、彰人は冬弥のところに向け、少し考えたら答えた。
「あれじゃね、バレンタイン」
「バレンタイン?あぁ…そうか。もうすぐ14日か」
「ちょっとちょっと、二人とも反応少なさすぎない?あんたたちならいっぱいチョコもらえるでしょう?」
「べつに欲しくはないって」
彰人は無関心みたいに返事しながら、謙さん作ったパンケーキを口に移る。
「じゃ冬弥は?」
「俺は……」
彰人に目線を配った冬弥は頭を少し傾け、微笑んだ。
「彰人からのチョコなら、ほしいかも」
「は?」
何を言っているのか理解できなかった彰人はパンケーキを食べている手を止まり、杏が隣で大声で笑った。
「笑うんじゃねぇぞ!つーか、男が男にチョコを与えるなんてありえないだろう」
「そうなのか」
「それはそうだろうが!バレンタインって女子のイベントだし」
「いいじゃん!いいじゃん!彰人、冬弥にあげれば?私はこはねにあげる!」
「じゃ私も杏ちゃんにあげるよ」
「やった!こはね大好き!」
二人のやりとりを呆れたように見て、冬弥の視線を感じた。
「なに」
「いや、ただ……やっぱりほしいな、彰人のチョコ」
「っ!」
ーーーー
「って、作るの?チョコ」
「はあ!?作らねぇよ。適当に買えばいいだろうが」
「それじゃこころないじゃん!」
「なんだよ、こころって」
翌日、杏がまだ昨日冬弥が言ってること気にしているようで、彰人に付きまとい、
「あ、そうだ!店に来てよ。父さんに教えもらってさ」
「はあ!?いらねぇよ」
「ちょっとなに?冬弥絶対あんたのチョコ期待してるのに!かわいそうな冬弥は……」
「ちっ!わかったわかった!やればいいだろう!」
「はは!そうこなくちゃ!」
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バレンタイン当日。
「青柳くん!このチョコ受け取ってください!」
「すまない…受け取れないだ…」
「青柳くん!これ…義理だから…受け取ってくれますか」
「すまない…俺は…」
「青柳くん!…」
「青柳くん!…」
今年のバレンタインは休日に重なったから、女子たちは事前にチョコを準備してきた。今日はバレンタイン前の金曜日、二人登校の途中、女子たち冬弥にチョコを渡してみたが、全部冬弥に断れた。だから今は、彰人だけ両手いっぱいチョコを持って、靴下にもいっぱいあった。二人に困らせていた。
「人気者だな」
「……それは彰人も同じだろう」
「全部義理だけどね」
彰人の言葉に冬弥の顔が曇っていて、ちょっと複雑の顔で彰人を見る。
「彰人は本命の方がいいなのか」
「え?」
冬弥からの質問を受け、一瞬で言葉に出ない彰人は瞬きしながら冬弥見る。
「べ、別に…本命なんて…ほしくはないって」
「だがさっき彰人が言ってることはほしいということなんだけど」
「ああ!もう…う、うるさい!教室に戻る!」
彰人は室内靴を履き替え、逃げるような現場から離れた。
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「あ~き~と~チョコ渡した?」
「…うるせぇ…まだだよ…」
「はあ!?まだ渡してないの?ダサいなもう…」
「ほとっけ!学校で渡すもんか!恥ずかしいだろうが!」
「うん~まあ、そうだね。彰人はプライド高いだもんね」
「はあ!?」
杏は笑いながら携帯を持ち上げ、何を打ち込めてからまたポケットにしまった。
「これでいいでしょ」
「何がよ」
「ふふ、昼になったらわかるよ」
疑問を持つ彰人をほっといて、風紀委員の仕事をしつづけた。
昼休みになって、隣のクラスから大騒ぎの声を聞き、廊下まで越して1-Bの中を覗いてみたら、中に冬弥を中心として女子たちに囲まれている。
「なんだあれは…」
「女子たちが挑戦しているようだぞ、青柳は誰のチョコをもらうかって」
「へーなんでこんなことになったんだ?」
「その青柳が好きな人のチョコだけもらうって言ったから」
「え」
廊下で同じ1-Cのクラスメイトに聞いたら、変な状況になった今は、冬弥にチョコを渡しみている子は長い列に並べている。
少し見たら、もう半分の子は冬弥に断られている。冬弥が悲しそうな表情でいたが、それでも誰のチョコをもらわない。
「好きな子って、誰のことだろう」
「『あんたのことじゃない?』」
「うわああ!!!」
いきなり小さい声でかけられた彰人はその方向に見て、そこに杏が立っていた。
「びっっっくりした!!!なにすんだよ」
「彰人も行ったら?冬弥が待ってるよ」
「はあ!?バカ言え!」
「まあまあ!そういわないで、早く行って!」
杏に押しられ、仕方なく鞄にチョコを持ってきたら、杏に1-Bの教室に押しられた。
「……!彰人?」
「くっそ…杏のやつ、こんなことやりやがって…」
いきなり男が教室に入ったから、女子たちの視線が痛い。その中、一人だけの表情は違った。
冬弥は彰人が来てから、目がキラキラしている。女子たちも気づいたらしい。
そんな痛い視線でおそるおそる冬弥の前を歩いて来たが、話す言葉は出てこない。
(くっそ…どうするだよ)
「彰人…どうかしたのか…?」
冬弥の表情から見て、彰人の言葉に期待しているようだ。
(くっそ、一か八か…!)
「こ、これ、あげるから」
「俺に?」
「あ、ああ…用事終わったからもう帰る」
「彰人、待ってくれ」
彰人のチョコを受け取ってから、その手を掴んだ。
「な、なにすんだよ!」
「まさか本当に彰人からのチョコをもらえるなんて、嬉しくて…」
「……そうかよ」
「ありがとう、彰人」
「……おう」
女子たちが残念の気持ちであったが、それでも温かい目で二人のことを見守っていた。
男子たちもそうそう二人の関係が知っているようで、喝采をしている。
その日、そのもの語りは、神高の伝説のラブストーリーになっていた。